19世紀半ばから20世紀初めのフランスの美術界では、伝統的な価値観と革新的な美意識のせめぎ合いのなかで次々と新しい美の潮流が生まれました。当時の主流は、神話や宗教、歴史を題材に伝統的な美を追究した美術アカデミーの画家たち。この流れに反発して誕生したのが、パリ郊外の農村風景を描くバルビゾン派や、ありのままの社会の姿に目を向けた写実主義、太陽の移ろいで変化する自然の色彩をとらえようとした印象主義の画家たちなどでした。その後、社会の近代化が進むにつれてより独創性豊かな表現へと向い、強烈な色彩を用いたフォービスムの画家なども登場。やがて芸術の都にはさまざまな国から芸術家たちが集まり、彼らはエコール・ド・パリと呼ばれるようになりました。
本展では、こうした時代を彩った画家たちの作品を紹介するとともに、20世紀初めのアール・デコを代表する工芸家、ルネ・ラリックのガラス作品もあわせて展示。ダヴィッド、ドラクロワ、ミレー、コロー、クールベ、ルノワール、ユトリロ、モディリアーニ、藤田嗣治(レオナール・フジタ)など、41作家96点を通してフランス近代美術の精華をお楽しみいただきます。
出品作品はすべてオフィスコーヒーや介護、リゾートなど幅広く事業を展開しているユニマットグループの所蔵。本展は同社のコレクションを一挙に公開する全国初の巡回展でもあります。ぜひこの機会に知られざるコレクションの数々をご覧ください。
ラリックは宝飾デザイナーから転身したガラス作家。優雅でリズミカルな装飾様式を確立し、アール・デコの寵児として活躍した。ラリックの開発したオパルセントガラスは、光に応じて色調が変化することから、とりわけ人気を博した。
ルネ・ラリック(1860-1945)
イタリアの古典絵画の影響を受けたエンネルは、風景画や裸婦像を得意とした。とりわけ、戸外を背景にした裸婦像は人気を博し、繰り返し描いた。ここでは聖女マグダラのマリアを、暗い岩壁にもたれかかり瞑想にふける若き美女として表わしている。
ユトリロは生涯にわたりパリの街を描き続けたエコール・ド・パリの画家。もともとは、アルコール依存症の治療の一環で絵を描きはじめたが、やがて高く評価されるようになった。教会はユトリロが好んで描いたモチーフ。彼の絵の多くはパリの絵葉書を元にしているが、これもその一つと考えられる。
明るく輝くような色彩とやわらかな筆致で女性や風景を描いたルノワールは、印象主義の画家。後年は印象主義と古典様式を融合した独自の豊麗な作風を完成させた。ふくよかでばら色の頬をもつアリーヌは、ルノワールの理想の女性。創作意欲をかきたてるミューズ、妻、そして子どもたちの母として、生涯ルノワールを支え続けた。
ルノワールには魅力的な花の絵が多い。菊やキョウチクトウなどをあふれんばかりに描いたこの作品も、そのひとつ。ここでは、さまざまな色彩と動きのある細やかな筆致とが響きあい、まるで画面から花の生気が立ち上っているように見える。
古典的な絵画を学んだコローは、パリ郊外の森やイタリアの風景、人物などを描いた画家。銀灰色の靄(もや)に包まれたような繊細な色調や抒情的な作風が、当時から人気を集めた。フランス北部の小村の何気ない風景を描いたこの作品にも、そうした特徴が見られる。
新古典主義のダヴィッドは、美術アカデミーの中心人物。皇帝ナポレオンの首席画家としても活躍した。ベリサリウスは東ローマ帝国の将軍。無実の罪をきっかけに、物乞いに身を落とした伝説がある。ここでは、施しを受けながらも威厳を失わない武将の表情が、明暗を生かした緊張感のある描写で表わされている。