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芸術家たちが人間の個性や内面といったテーマを重視した大正時代、女性像を得意とした日本画家・上村松園(明治8〜昭和24年)が季節や日常の情緒といったものを超えて、女性の内面の深淵を表現しようと挑んだのが、この《花がたみ》である。松園40歳の時の作で、第9回文部省美術展覧会(文展)で2等賞を受賞した。
世阿弥作とされる謡曲「花筐(はながたみ)」に取材し、縦2メートルを超える絹本の大作に描かれているのは、そのヒロインである照日前(てるひのまえ)。
音もなく散り行く紅葉のなか、花かごを手にたたずむ女性の表情や姿態にはどこか尋常ならざるものがある。愛する人をひたすら追い求め、乱心を装う照日前。その狂気を、雅な風情のうちに描き出そうとしたものだ。装いの乱れ、どこかうつろな眼差し、あてどのない仕草など、繊細な筆致が照日前の内面を見事にものがたり、美しい衣装や季節の彩りが、その深い悲哀をいっそう際立たせている。松園は華麗な能衣装や凄みのある美しさをたたえた能面に取材しながら、この主題を絵画として結実させている。
上村松園《花がたみ》本画 大正4(1915)年
《花がたみ》素描 大正4(1915)年
《花がたみ》下絵 大正4(1915)年
松園はこの作品のために祇園の舞妓をモデルに、舞いを舞ってもらって描くなど、多くの写生を重ねている。
さらに松園の随筆集『青眉抄』によれば、能面も参照しており、「増阿弥」の十寸神(ますがみ)という面を写生し、照日前の顔に生かしたという。
いずれも松伯美術館蔵
《鼓の音》 昭和15(1940)年 松伯美術館蔵 黒髪を高島田に結った女性がまとう振袖の色の艶やかさに目を奪われる。さらに鼓を奏でる手、その指先の細やかな表情にも惹きつけられる。松園自身、鼓を習っていたといい、作品からは今にも鼓の音が響いてきそうである。隅々まで神経の行き届いた描写で、日本画の絵具の美しさも改めて実感する一点だ。ニューヨーク万国博覧会出品作。 |
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《雪吹美人図》 明治44(1911)年 ウッドワン美術館蔵 |
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松園35歳の時の優作で絹本の大画面(縦195×横102cm)である。吹きつける雪のなか、傘をさし、身をかがめて歩く女性たち。浮世絵美人図にも多く見られる図様であり、それらも学んで描いたのであろう。風にひるがえる袂や裾にみる細やかな筆致や色の対比が見事である。 |
《春園鳥語》 昭和4(1929)年 松伯美術館蔵 |
《丹頂》 昭和55(1980)年 松伯美術館蔵 |
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花樹に戯れる大小さまざまな鳥たちのさえずりが聞こえてきそうなイメージ。紅白に彩られた大輪の花は椿である。昭和初期、20代の若き松篁が自然の美しさを装飾的に描出した意欲作で第10回帝展に出品された。イタリア・ポンペイの壁画に影響を受けて制作したという。 | 鮮やかな赤を頭にいただく丹頂鶴。長い首を伸ばし、しなやかで美しい姿をみせる鶴と、片脚を羽毛にうずめて一本脚で安息する鶴。その対比も鮮やかに、鳥たちの息遣いが静謐な雪野のなかに描出されている。抑制された色彩の繊細なグラデーションが雪のやわらかさや輝きを見事に表している。松篁の花鳥画を代表する格調高い一点。 |
《月夜》 昭和14(1939)年 松伯美術館蔵 キビ畑にあそぶウサギの親子を描いた戦前の作。伊勢の白子浜に避暑に出向いていた松篁が、近くの畑で月夜に輝くキビの葉から想を得て描いたものだ。青い光につつまれた幻想的な情景。親子のウサギには「当時の私の家族の雰囲気が重ね合わされている」(松篁)という。 |
《檳椰樹》 昭和36(1961)年 松伯美術館蔵 昭和36年、京都市立美術大学助手となった28歳の時の作品。淳之の初期作品の多くは油絵を思わせる重厚な絵肌と暗い色調が特徴で、本作もそうした一点。檳榔樹(びんろうじゅ)の大きな葉や鳥たちをモティーフに、造形性の強い表現で奥行きと装飾性をそなえたイメージを生み出している。 |
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《秋映》 平成9(1997)年 松伯美術館蔵 |
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ゆらぎをたたえた水面は赤のやわらかな濃淡をみせている。秋の夕陽に照り映えているのであろう。たゆたうような蓮の葉のそば、遊ぶ鴫(しぎ)の華奢な姿が慈しむようなまなざしでとらえられている。淳之の花鳥画を貫く繊細な情感が際立つ大作である。 |